ご無事で。もし、これが永遠の別れなら、永遠に、ご無事で。
カールじいさんの空飛ぶ家を見てきた。
追憶のシーンと、中ほどのあのページに、やられました。
3D眼鏡の下に普通の眼鏡かけて、その下で泣きました。
涙をがまんする気にもなれませんでした。
夫婦愛と老人は僕のもろいポイントでございます。
こまごまとした演出もユーモアも実験も楽しみつつ、
勘所での画力勝負からも逃げず、
実に充実して豊かだった。
この半生best3に入ります。
僕は昔から、本気の若者のエネルギーより、
本気のじいさんの鬼気に揺さぶられる。
リスクの本質を知りぬいて、無駄死には決してせず、
それでいて、堂々と真っ向から刺し違えるつもりの。
彼から迷いを全く消し去る亡き妻への愛を、
妄執だ後ろ向きだと難じたところで、
本当に意味がない。
二人の思い出から、新しい明日へと一歩踏み出すことを、
天国の彼女は望んでいるだろうし、
世界にとって余生はまだまだ豊かであるのだから、
それが当然たどるハッピーエンドなのだとしても。
円空の、亡き母を慕う1000万本の仏像しかり。
東山魁夷の、幼き日に失った弟の幻が、緑の森の水辺に、ついに浮かび出る白い馬しかり。
尾崎秀実の、愛情は降る星のごとくと獄中に綴った、小さい娘への愛情しかり。
トゥーランドット姫に殺されても、愛する王子の名を秘する若い召使の娘しかり。
彼が妻に注いだ、執愛の集中を、人間にとって他に例えようもない、至上の何かであるように思えてくる。
それにつけても、誰かが誰かを思い詰める姿の、
何とせつないことか。
せつない姿を見つけるにつけ、
振り返り、自らもこの世に生きてみて、
確かに、その他に何をすることがあろうかと、
実にそう思えてくることか。